仏映画「オルフェ」(1950)の感想。ジャン・コクトー監督。

1950年公開のフランス映画。ジャン・コクトー監督。ギリシャ神話のオルフェウス伝説をもとにしている。

人間の業を題材にしている作品。主人公は、鏡を通して死の世界と行き来するようになり、彼の姿に人の持つ業が投影される。

死に神に導かれた死の世界は、規則を守らなければならいところ。死は絶対のものであり覆すことはできない。だが、主人公は死んだ妻を取り戻そうと入り込んでしまう。死者をよみがえらせるなどこの世界ではありえないこと。

彼は、特例で生き返った妻を現世へ連れて行く。しかし妻の顔を見てはいけないという言葉に反して見てしまい、再び彼女を失ってしまう。見るという行為は、妻がそこにいることに対しても不安を感じるという人間らしい心情だ。

愛する妻を亡くせば、悲嘆に暮れるのは当たり前だ。だが、死の世界から見ると絶対的な死を嘆いて苦しむのは、無駄にも見えることだ。

死の世界に入るときにゴム手袋をするのは、死の世界では何事も自分のものとすることができないという暗喩だろう。だからこそ、逆説的には死後は所有したものに左右されない自由があるということになる。

人の持つ不安や恐怖、愛情や欲望は、人間だから持つものだ。合理的でなく無意味であっても、それが人間だということだろう。