垂秀夫著「日中外交秘録」の感想。

著者は前中国大使で「中国が最も恐れる男」と言われた外交官。

仕事の出来る人の手記だ。外交官人生40年の回顧録であり、その間の日中外交の記録でもある。チャイナスクールの一員としてスタートし、中国大使として退官するまでの対中外交が詳細に記述されている。

若い時代から情報源の確保とそのための中国人脈づくりに注力する。赴任地は、短期のアメリカを除けば、南京、北京、香港、台湾と、自ら志願して中国専門家のラインを進む。当然ながら重要情報を入手するほど要人に食い込めば、中国からは嫌われる存在になっていく。だが、一方では友好関係の構築のためのチャンネルも同時に確保していく。硬軟織り交ぜた活動は、徐々に大きな仕事に結びついていく。

役職が上がった後半は、政治家とのつきあいが増える。出来る男であることは政界にも知れ渡っていて、一目置かれている。政治家とのつきあい方もうまい。官僚としての本分をこえず、民主党政権での素人外交の収拾のために、自ら泥をかぶるようなことも引き受ける。

仕事が出来るので政治家や上司から引き立ても多いが、出来る故の周辺との摩擦も多かったと思う。だが、省内の権力争いなどについては触れられていない。また、多大な労力を割いたであろう国会答弁対策についても記述はない。視点はあくまで日中外交にあり続けたことがわかる。

高い情報収集能力とそれに基づく的確な判断。何よりも外交官としての高い志。官僚バッシングをよく聞くこの頃だが、こういったサムライのような気概を持って仕事に取り組む人もいることを改めて思わせてくれる一冊だ。