佐藤大介著「韓国・国家情報院」の感想。

韓国の情報機関である国家情報院の歴史と活動についての本。

かつては「泣く子も黙るKCIA」と言われるほど、絶大な権力を誇っていた国家情報院。朝鮮半島の分断が冷戦時代の対立の最前線であったことから、北朝鮮に対する諜報活動はもちろん、国内統制にもその権力が行使されていた。とくに朴正熙政権下での反体制派への取り締まりは苛烈を極め、現在でも強い批判の対象となっている。

北による青瓦台襲撃未遂事件、ラングーン事件、大韓航空機爆破事件など、荒唐無稽とも言えるテロ事件が次々と実行されたことを思えば、韓国側がどれほどの態勢で対抗してきたかは想像に難くない。

その後、民主化の進展により革新系の政権も誕生するようになる。金大中が大統領になるとは、かつて彼を拉致した張本人とも言えるKCIAにとって、まさに歴史の皮肉であった。

政権交代が頻繁になれば、現政権の政治的立場のみに固執した諜報活動はもはや不可能だろう。民主化は、諜報機関の性格そのものを大きく変化させたと言える。かつてに比べ影響力は低下したとはいえ、国家の安全保障において果たすべき役割の重要性は変わらない。

そうした韓国の情報機関の姿を知るうえで、本書は読み応えのある解説書である。