原作は筒井康隆。長塚京三主演。モノクロ作品。気になっていた作品だが、封切りのときに近くに上映館がなかったので観ることができなかった。U-NEXTに入ったので早速観てみた。
主人公渡辺儀助は、枯れたとはいえ元大学教授。ひとり暮らしでも食事をしっかりとつくり、部屋の中もきれいに片付いている。恩師を慕う教え子たちにもたまに会うし、いまだに原稿や講演の依頼もある。悠々自適ではないかと思われるが、本人は敵の存在を意識しはじめ、不安感が徐々に募っていく。
老いは徐々にやってくる。かつて子供時代に年齢による束縛を受けていた。だが、それは日に日に解放されていく。だが老いは逆だ。社会とのつきあいがなくなってくる。体力がなくなり健康を害す。絵に描いたようなサギに引っかかる。妄想の世界に足を踏み入れるようになる。
とくに妄想は悲劇的だ。現実と空想の世界の区別がつかなくなる。まともな社会生活が困難になる。精神崩壊のような状態だ。そうして社会から隔離されていく。子供時代の束縛は、自由な未来を夢見ることで耐えられるが、年老いてからはその希望さえもない。
原作には、少々愚痴っぽく細かな心理描写が多い。儀助役には少しくたびれたようなキャストがぴったりではと思っていたので、長塚京三ではちょっとかっこうよすぎではと思いながら観始めた。
ところが長塚京三はうまく演じている。全体を覆う不安感を感じさせる演技で、うらぶれた雰囲気をうまく出している。原作にある細か過ぎる心理描写が演技から伝わってくるようで、むしろかっこういいがゆえに不安感がが際立っている。
年齢を重ねるほどに身につまされる映画だ。老いはやはり怖ろしい。