映画「ベニスに死す」(1971)ヴィスコンティ監督の感想

監督はルキノ・ヴィスコンティ。トーマス・マンの同名小説を映画化した作品。

主人公はドイツの老作曲家。静養のために訪れたベニスで、ポーランド貴族の美少年に出会う。その美しさに心を奪われた主人公は、少年を求めて街を彷徨うようになる。ベニスではコレラが流行しており、ついに主人公も感染してしまう。

セリフも少ないし、たいした事件も起こらない。ストーリー映画ではない。

老作曲家の表情に次第に変化があらわれる。ベニスに着いたときは、周囲にまったく溶け込めない孤高の様子であったのが、少年に惹かれるようになってから柔らかくなる。一旦、帰路についたが、荷物配送の手違いで再びベニスに戻るときの嬉しそうな顔。

もともと主人公の美に対する姿勢は完璧主義。一切の妥協や汚れを許さない。ところが心惹かれる少年の美は、ベニスの汚れた街並みの中でも変わりなく魅惑的なものだ。究極の自然美というものは、周りの影響など関係なく、それ自身が美しいもの。それに比べ主人公の美意識は、散髪店の化粧のように、滑稽にも見える不自然さがある。

最後のシーンで友達と戯れて泥だらけになる美少年。それでも美しい。それを見つめながら主人公は命を落とす。究極の美というものは人の生死を超越するということ。

主人公の美意識を通して自然美を表現した作品。ヴィスコンティ監督の傑作。