韓国映画「ほえる犬は噛まない」(2000)の感想。ポン・ジュノ監督のデビュー作。

「パラサイト 半地下の家族」のポン・ジュノの長編映画デビュー作。団地内で起きた犬の失踪事件を題材にして、社会矛盾を痛烈に風刺した作品。

原題は「フランダースの犬」。韓国で犬は、ペットというだけでなく、ののしり言葉でも使うくらいに蔑まれた存在。更に、食用の文化まである。原題から受けるかわいらしいというイメージだけでなく、複雑なとらえ方ができる動物。

邦題の「ほえる犬は噛まない」の方がダイレクトに内容を伝えている。ほえる犬は凶暴に見えるが、実は小心者だという例え。一般に思われているのとは、まったく正反対のことが世の中で起きているという矛盾。

主人公の大学研究者は、お金がなく妻に食べさせてもらっている。教授になるという願いも実現するかどうかわからず、不安定な状態に苦しんでいる。将来を嘱望される若手学者というイメージとは正反対だ。

団地の管理事務所の女性事務員は、まともに経理の仕事もせずに、ただ夢見る毎日を送っている。希望のない日々で、若い女性の溌剌としたエネルギーはどこにも見えない。

他にも「ほえる犬は噛まない」式の事例が次々に現れる。

うんこの話をする女主人公、学校に行かない小学生、後輩を助けない先輩、夫を尊敬しない妻、鍋を横取りする管理主任、強盗を撃退する強い女性銀行員、埋葬した犬を食べてしまう警備員、賄賂を受け取る教授、若いのに美しさに注意を払わない友人など。

まるで双眼鏡を逆からのぞくような逆転現象が、実際の社会の至るところに起きている。

最後は、ふたりの主人公の明暗が分かれる。高学歴の男性である研究者は、なんとか教授に昇進する。一方、商業高校卒の女性は、職を失って山野をさまよう。これも韓国の学歴と男女の格差を象徴している。

片方の靴が脱げてしまっても走り続けて達成した韓国の経済発展。きれいに手抜き団地を作ったが、すべてをその生活の中に押し込んでいるのも今の韓国の現実。そこには富裕層から底辺で苦しむ浮浪者のような人も生活している。犬をペットとして可愛がる人もいれば、食用にしようとする人まで。

そういったすべてを盛り込んでいる団地の生活が、今の韓国の歪みを表しているというシニカルな作品だ。

韓国独特の文化が反映された犬を、うまく社会風刺の道具として使い、コミカルストーリーとして描いた映画。デビュー作であるが、これもポン・ジュノ監督の良作のひとつ。