亀山郁夫著「人生百年の教養」書評感想。

かっては、学生がとにかく教養を身につけねばという切迫感から、難しい本を訳がわからぬままに読んだという時代があった。今の時代、教養とは何かという問いかけ自体、ほとんど聞くことがなくなったように思う。

ロシア文学の亀山先生が、専門の文学と趣味の音楽をもとに教養について語っている。その多くが、自身の教養をめぐる格闘記といった内容。現代の教養人のひとりと言える著者が、若い頃からの教養をめぐって七転八倒する姿が、かなり赤裸々に書いてある。

東京外国語大の学長時代に、ベルリッツの英会話レッスンに通っていたという話には笑った。もちろん一般的なレベルで英会話が苦手だということではないことはわかる。村上春樹やアニメにほとんど関心を持っていなかったことなど、とくに書く必要がないことまで告白しているところも、著者の人柄が出ている。

どんな問題でも、判断のもとにロシア文学があるのが、教養人としての証しだろうと思う。

教養というのは、もともと実学に比べれば直接役に立つことは少ないもの。しかし、それでもやはり必要なものだということが、著者の体験にもあらわれている。

大仰に教養論などを展開せず、自身の経験がいろいろと書かれていて、ヒントになるところがいくつもある。非常にためになる本だと思う。