映画「Cloud クラウド」(2024)の感想。黒沢清監督、菅田将暉主演。

黒沢清監督、菅田将暉主演の作品。今の日本社会の負の面を拡大したような映画だ。ホラーのテイストを少し加えて、現実社会の怖さを転売ヤーを通して表現している。

仕事への誇りとか情の通った人間関係などどこにもない。希薄な人間関係と生きるために必死に金を稼ごうともがく若者たち。冒頭の健康器具の買い上げのシーンで、売り手がしぶしぶ取引に合意するシーンは描かれていない。今の社会ではシステムができあがっていて、好むと好まざるとにかかわらずそこに取り込まれてしまう。世の中はそれでも動くが、一人一人の人間はただ翻弄されるのみの存在になっている。

出来上がったシステムのもとでは、人間関係の顔が見えない。だから、転売で搾取をするようなことも平気ですることができる。お金ともののやりとりそのものは正規の取引だ。そこには人の感情といったものはない。

顔が見えない社会では憎悪を抱くのも簡単だし、人殺しにまで発展する。まったく救いようのない世の中だ。

映画としての作り方はうまいと思う。転売ヤーの仕事からは、何とも言えない不安定さを感じさせる。主人公が転落していく姿を、のぞき見るような感覚で話が進む。引き込まれるが怖いストーリーだ。